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私は醒めない夢を見る

第1章 日常


「先生。私、先生が好き…」
……入れないんですけど。
長引きそうなので、メールで適当に理由を付けて雛沢ちゃん達に帰るように言った。了解の返事を確認すると、私は壁にピッタリとくっつき、中の様子を伺う。気分はまるで密会を偵察する忍者だ。
「先生のこと考えると、夜も眠れないくらい、好きなんです」
熱烈な告白をしているのは、隣のクラスの女の子だ。名前は知らないけど、顔はなんとなく見覚えがある。
一方、告白されている人は背を向けているせいで顔が見えない。先生って言われてるからきっと先生だろうけど。
「付き合ってくれませんか」
女の子は顔を赤くして目に涙を溜め、必死に言葉を絞り出している。雛沢ちゃんの恋愛小説の影響か、こういう状況では女の子応援したくなってしまう。いや、これで成立したら軽く事案発生なんだけどね。でも、頑張れ女の子…!
「お気持ちは嬉しいですが、お付き合いは出来ません」
その声は、今日の生物の授業でずっと聞いていたものだった。
「どうしてもダメですか、松野先生」
やっぱり松野先生! ファンが多いのは周知の事実だけど、本当に告白されているとは。
「先生が本当に好きで…私じゃダメですか?」
「ごめんなさい」
あまり感情の篭っていない松野先生の声が響く。
「君は、学校という狭い世界で年上の身近な男性に擬似的恋愛をしているだけですよ」
「そんなっ!」
泣き崩れる女の子にお構いなく先生は続ける。
「僕、恋愛にはあまり興味がないんです」
女の子はしばらく泣いた後、すみませんでしたと言って教室を出る。私は咄嗟にドアの空いていた隣の教室へ逃げ込む。パタパタと上履きを鳴らす女の子の姿。どうやら気がつかれなかったらしい。思わずため息が出そうになるのを手で塞ぐ。まだ隣には松野先生が居る。早く出ていってくれないかなぁ。
隣の教室の様子が分からない以上、下手に動くわけにもいかない。早く帰りたいのに、なんで課題を教室に忘れた私。
しばらく足音を消しながら壁に耳を押し当てたりもしてみたけど、何も聞こえない。あれから十分も経っているし、もしかしたら女の子が出て行ったときに反対方向に出て行ったのかもしれない。
身を低くして教室を出ると、自分の教室の様子を伺う。
誰も居ない。今までの自分の行動が急に馬鹿馬鹿しくなって、私は普通に立ち上がり教室に入った。

「皆川さん」

松野先生と、目が合った。
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