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私は醒めない夢を見る

第1章 日常


放課後になって、私は部室に向かった。
私の所属している文学同好会は、同好会ながらもちゃんと部室がある。部室と言っても、先生達の駐車場近くに建てられた掘っ建て小屋のようなものだけれど。五つの部室が長屋のように作られた掘っ建て小屋には当然エアコンも暖房機もない。
「皆川せんぱーい!こんにちはー!」
部室の前で手をぶんぶん振っているのは、後輩の雛沢ちゃん。彼女の書く恋愛小説は、それなりにレベルが高く評判もいい。
「雛沢ちゃん早いね。もう来てたんだ」
「今日はHRが早く終わったんで!」
元気いっぱいに話すその姿は、見ていて元気をもらえる。
「今日の鍵当番、当麻君なんですよ。早くしてねって言ってるのに」
当麻君は雛沢ちゃんと同じ一年生の男子部員。純文学を心底愛する彼は運動神経も良く、よく運動部の顧問や部長の勧誘を受けている。本人は文学一筋なので断り続けているけど。
「きっとまた陸上部あたりに追われてるんだよ。もうちょっと待ってよう?」
「先輩がそう言うならいいんですけど…あれ?」
雛沢ちゃんが隣接する校舎を見上げ、首を傾げた。
「どうかした?」
「先輩、アレって人の手ですよね?」
上を向くと、確かに三階の窓から人の腕はみ出ている。
幽霊の可能性は無いだろうが、少し気味が悪い。私達の声に気が付いたのか腕が一旦引っ込み、代わりに人影が顔を覗かせる。
出て来たのは、松野先生だった。
「え? あ、ウソッ!! 松野先生!?」
途端に雛沢ちゃんがキャーキャーと声をあげ手を振り始めた。
「松野先生ー! 腕がはみ出てましたよー!!」
松野先生が笑って手を振り返す。その目は雛沢ちゃんではなく、やっぱり私を見ているような気がした。慌てて私も会釈を返す。松野先生は同じように会釈をして部屋の中に戻っていった。
あそこは生物室だったっけ。
「はぁー松野先生って下から見てもカッコいいですよね!」
「雛沢ちゃんもファン?」
「もっちろんです! 先輩のクラスって確か松野先生が副担任でしたよね!? 羨ましいです!!」
雛沢ちゃんはそう言って私にもたれかかってくる。お、重い…。
「別に副担任だからってなにかあるわけでも無いでしょ? 授業持ってもらってるけどたかが知れてるし…」
「定期的に会えるとか十分羨ましいです!」
来年は松野先生担任やらないかなぁと愚痴る雛沢ちゃん。やっぱりこういう反応が普通なのだろうか。
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