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私は醒めない夢を見る

第1章 日常


チャイムが鳴れば、教室で遊んでいたクラスメイト達がゆるゆると席に着く。
いつもより動きが遅く見えるのは、次の授業担当が誰だか知っているからだ。
私は生物の教科書と資料集をロッカーから出すと、一番後ろの一番端の席に座る。
ここの席は先生の目も届きにくく、内職にはうってつけなのだが、私はあまり内職が好きではない。
授業をせっかくしてくれている先生達にも失礼だと思うし、私が先生だったら決して気持ちのいいものではないだろう。
特に、この授業ではそんなことしたくなかった。
「遅れてすみませーん」
いつも通りの言葉と共に、松野先生が入ってきた。
「遅いよ松野ちゃん!」
クラスで一番のオシャレ女子を自称する内海さんが可愛い声で指摘する。
それを皮切りに、男女問わず笑いが漏れる。
「それはどうもすみませんでした。じゃあ始めましょうか。教科書を開いてー」
若干棒読み口調でそう言うと、テキパキと板書を始める。
途端にクラス中からノートを広げる音が聞こえる。
私も板書を取ろうと黒板の方を向くと、先生と目が合った。
その瞬間、分かりやすいほど心臓がドキリとした。
恋愛のような甘酸っぱいものではなく、冷や汗が出る方での意味だ。
板書を写すフリをして、ノートの方に視線を逸らす。
最近、なんだか松野先生とやたら目が合う気がする。
後ろの席に座ったせいで、目を配らせているのだろうか。
生物の成績は良くも悪くもないし、目を付けられる理由はそのくらいだろう。
だけど、先生の目にはそれだけとは思えないような光を讃えている。
蛇に睨まれた蛙のような気分だ。
先生の視線が、少し怖い。
松野先生は学年でも評判の緩くて優しいイケメンな先生なのに。
うちのクラスの副担任に決まった時なんて、クラス中が喜んでいた。
言葉遣いも丁寧で優しいし、実際に先生が好きと公言している女の子だって多い。
自分の感覚がおかしいのだろうか。
説明するとき、松野先生はいつも皆を見渡しながら話す。
きっとその時に教室の隅々まで見ているだけだ。いい先生じゃないか。
そう自分に言い聞かせる。
生物の授業は何事もなく進んでいった。
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