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私は醒めない夢を見る

第2章 秘密


咄嗟に逃げようとしたけど、強い力で抑え込まれてしまった。
「綺麗な手が、台無しですね」
「その声っ、松野先生!?」
首を後ろに向けると、少しだけ腕が緩んで至近距離で松野先生と目が合った。いつもと同じ顔だけど、目は赤く、口元には赤い液体が付いていた。
「自分から迫っておいていざ噛まれると逃げ出すなんておかしいですよね。……この血は拭いてしまいましょうか」
先生はハンカチで私の手を丁寧に拭った。片腕の力だけでも相当強く、抜け出せそうにない。
「せ、先生がこんなことを…?」
「ええそうです。…少し見苦しいので、彼女には帰ってもらいましょうか」
先生が手をかざすと、女の子の姿が消えた。比喩でもなんでもなく、本当に消える。
「さてと、煩わしいものはなくなりましたね」
「ちょっと待ってください。なんなんですか、これ」
この状況が分からない。先生は赤い瞳を細めた。
「見られたからには誤魔化しようがないので言います。僕、実は吸血鬼なんですよ」
「吸血鬼…」
いやおかしい。何より吸血鬼が現代日本に居ることがおかしい。
「冗談はやめてください…血液嗜好病でしたっけ? ありましたよね確か」
「ええ、ありますね。ですが、先ほどあの女生徒を消したことはどう説明しますか?」
確かにそうだ。でもだとしたら、本当に先生は吸血鬼なの? 脳がキャパシティオーバーで、かえって冷静になっているらしい。
「万が一先生が吸血鬼なら、今すぐ離してください」
「ダメです」
即答されてしまった。
「皆川さん、今の状況分かっていますか?」
吸血鬼と名乗る先生に羽交い締めにされている。
「僕、ああやって近づいて来る皆さんから少しずつ血液を分けてもらっているんですよ。もちろん記憶や傷跡を消してね。先ほどは急だったので術が完璧ではなかったのですが」
「わ、私にもそうするってことですか?」
松野先生はクツクツと笑う。吐息が首筋をくすぐった。
「是非そうしたいところですが、皆川さんには術が効かないんですよ」
「効かない?」
「ええ、残念ながら。これまでそんな人間に会ったこともなかったのでついつい興味深く観察してしまいました」
授業中のアレって、私のこと観察してたの…。
「噛まれた人って、なんともないんですか?」
「せいぜい翌日の貧血くらいでしょうね」
「それはちょっと…」
「そう思うなら、食事は貴女一人に絞ってもいいですよ」
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