第3章 【1】
《碓水 灯》
護廷十三隊の中で、彼女の事を知らない死神は誰一人いないだろう。
彼女の身の丈程もある、大太刀がまず目印。
死覇装の上には、あの八番隊隊長を彷彿させる様な紅色の羽織を纏い、何よりも乱菊と負けず劣らずのスタイルの良さにに、誰もが振り返る。
腰までの漆黒の髪に、夏の新緑のような双眼。
所謂"美人"という部類にどっかりと腰を下ろす彼女だが、灯は見た目とは裏腹に、かなり年上だった。(という事に更に食い付いた者が多かったのは言うまでも無いだろう)
しかし、誰一人、灯の本当の年齢を知らない。
----------…否、
年齢だけじゃない。
あの山本総隊長でさえも、誰一人として《碓水 灯》の全てを知る者は居なかった。
もしかしたら、名乗っている名前も本当のものでは無いかもしれないのに。
しかし、灯の最も可笑しい点といえば、"死神"として存在し、"斬魄刀"を所持しているのにも関わらず、
---------------…霊力の欠如
もはや"皆無"と言って良いほどに、灯からは霊力も霊圧も何も感じないのだ。
初めの頃は、ただ上手く霊圧を隠していただけだと噂されたが、流石に可笑しいと勘付いた総隊長直々の検査のお陰で、護廷十三隊は驚愕した。
『存在こそが異形』
突如、護廷十三隊に現れた謎の人物として、灯は何時からか遠巻きに畏れられるようになる。
しかし、彼女は決して屈しなかった。
時は、50年後。
人(死神)というものは案外単純で、何時からか、誰も彼もが羨む視線で灯を振り返るのだから。
たとえ、
その羽織に、背負うべき数字が見えなくても。
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