第3章 【1】
-灯 Side-
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「それじゃ、寄り道しないでちゃんと行くのよ!」
背後にかかったそんな声に、苦笑を漏らしながらも礼は伝えて、彼女の部屋を後にする。
乱菊の元で乾かして貰った服は、歩くたびにふわりと揺れて位、綺麗さっぱり乾いて、重みが減った分随分心地良い。
「ふんふ〜ん♪」
以前、冬獅郎かそこら辺に下手くそと言われた鼻歌を、ここぞとばかりに歌ってみたり。
そしてふと隊舎から窓の外に目線を映せば、
「あ、虹だ。」
私が服を乾かして貰っている内に、綺麗に晴れ上がったらしい青空には、綺麗な橋が架かっていた。
急いで〈十〉と書かれた門を潜って外へ駈け出す。
そして広がる、雲ひとつない青空に七色を纏って輝くソレ。
「…綺麗だね、春霖…。」
腰に差した刀の柄に触れるながらそう呟けば、"彼女"は不満そうに震えた。晴れが嫌いなのは相変わらずらしい。
それに思わず、苦笑が漏れる。
「まったく…、流石は屁理屈さんだなぁもう。」
だけど私だって、別に晴れが好きだとか、虹が好きだとか思った事はない。
「だって、"綺麗すぎる"…もんね。」
この輝きに、
この懸命さに、
この純粋さに、
この温もりに、
全てが、…--------------日の当たる世界の全てが、私には眩しすぎて。
【 手の届かない世界 】
────────────…そう漏らすのは随分と簡単だった。
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(笑顔が消えた日)