第1章 朧月夜
―何かめっちゃ性格悪いんやろ?
―目つきも悪いし…見下してきてる感ハンパないな
―最悪や~…。せっかく三年間同じクラスにならんで済むと思っとったのに
ヒソヒソ、ヒソヒソ。クスクス、クスクス。
彼女の声に混ざって聞こえる、邪気を孕んだ笑い声や話し声。
例えるなら、散歩中に綺麗な小川を見つけて近寄ればゴミが浮かんでいた。そんな光景によく似ているように思う。
大半が、三年間同じ学校に通い続ける中で直接会話した顔見知りとはいえ、今日は新学期初日だ。
にもかかわらず、こんな多勢に、こうも陰口を叩かれる彼女は一体何者なのだろう。
高野小夜自身は、自己紹介をしただけで露骨に煙たがられるこの境遇を、一体どう思っているのだろう。
自己紹介を終え、席に着く高野小夜の後ろ姿を眺めていても分かるわけはない。
彼女が喋るのを止めてもまだ続く囁き大会に、「もうええわ」と言わんばかりに深い溜め息をつく。
次は自分の番。白石は立ち上がり、わざと大きな声で自分の名前を詠唱した。