第2章 白夜
「直接本人に聞かんかったん?」
適当に話題を変えるように仕向け、注意を逸らすしかない。
「思い詰めた顔しとったから聞くに聞けんくて…エラい事になってへんかったらええねんけど…」
「まぁ、大丈夫なんちゃう? ぼっちに心配されんでも」
ぼっち。言い放った瞬間、小夜の肩がビクリと跳ねた。
言い過ぎたかとも思ったが、それでも日頃彼女の背中に陰口を刺す人間のそれに比べれば可愛いものだろう。
彼女も「うぅっ…」と痛いところをつつかれたような声こそ出せど、心に傷を負った様子はなかった。
「人のことよりまず自分の事やろ。色々やっとうみたいやけど、上手いこといっとん?」
「そ、それは…」
「友達どころか、喋れる奴も増えてへんねやろ?」
「…はい」
段々と尻すぼみになっていく声。
彼女に耳や尻尾が生えていたら、きっとどちらもしゅーんと垂れ下がっているのだろうなと、ふと思う。
話を再び白石たち云々の話に戻される前に「じゃあ。俺、当番あるから」と、カウンターに戻ろうとしたら、小ぶりな唇が「あのっ」と、言葉を紡いだ。
「何や」とか「ん?」とか、言葉で返事をする代わりに歩きかけていた足をピタリと止める。
顔だけで振り向くと、上品な飼い猫のような両目とぶつかった。
「…今はまだこんな感じやけど…もし私にも友達が出来たら、そん時は…」
続きを言おうと、小夜がひと呼吸したその時。
「あっ、財前や! 謙也ぁー! 財前おったでぇー!」
彼女の声に被せるようにして、今日一番の図書室には相応しくない大音量が流れた。