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【テニスの王子様】白のコルチカム

第1章 朧月夜



何か雰囲気ある子やな

 始業式、新しい教室で最初のHR。
配布物を回してくれた前の席の女子の顔を、初めてしっかり見た時、白石蔵ノ介はそう思った。
 裕福な家庭の飼い猫を連想させるような、上品に吊り上がった大きな瞳。
 濡れた黒真珠ように艶やかな黒髪は、彼女が前を向いた拍子にふわりと舞う。
 それを後ろで纏めて留めている空色のバレッタが、髪の黒と良いコントラストになっていた。

 そんな中学生とは思えないくらい大人びた雰囲気を持つ彼女が、自己紹介の時間で名乗った「高野小夜(こうの さや)」という名前を覚えるのに、苦労をしなかった。
 それより理解に苦労したのは、水のように透き通った声で自己紹介を続ける彼女の周りから、小さな声がポツポツと聞こえてきたことのほうだ。

何やろ? 人が喋っとう時に…

 周りを見渡していると、白石から斜め前、高野小夜からはちょうど真隣に座る女子生徒二人の声がハッキリと意味を持った単語として聞こえてきた。

「なぁ、あの子ってさぁ…」

 眉根を寄せて、井戸端会議で噂を垂れ流す主婦のような顔を浮かべる少女たち。
 その表情から察するに、良い話ではなさそうだ。

「アレやんな。めっちゃ感じ悪い子」
「やんなぁ! 今年はウチらのクラスやったんや…最悪~」

 いちいち彼女たちを見ずとも、声が孕む刺から嫌悪感がハッキリと感じ取れる。
 彼女を貶めるのが当たり前…みたいなそんな空気に困惑していると、同じような刺があちこちから彼女めがけて飛んでくる。
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