第2章 白夜
「またアカンかったな」
人一人分のスペースを開けて、本棚の整理をするフリをしながら。
決して小夜の方に顔を向けず、周りには聞こえないようにボソッと声を掛ける。
まるでスパイと落ち合って話すみたいに。見られても、すぐに二人の秘密を隠せるように。
この幼馴染と学校で話す時は、他の誰より頭も神経も使う。
その苦労を訴えるように、横目でじっとりとした視線を送る。
横目から、小夜が何の邪気もない横目がまっすぐこちらを見ているのがわかる。
「しゃあないよ。今まですべき努力をサボッとったツケやわ」
同じように、周りには聞こえないような慎ましい音量で返された返事。
また頑張るわ、と零した彼女の声色から、傷ついた自分を慰めるために言い聞かせているような感じはしない。
別段へこんでいる様子もない小夜に、財前はホッと小さく息を吐いた。
「あ、そや」
声と共に、背表紙の角に指をかけたまま小夜の首がこっちを向いた。
それを気配で感じながら、それでもそちらは向かずに本棚を整理するフリをしていたら
「テニス部で何かあった?」
と、凜とした目を真っ直ぐこちらに投げかけてきたのだ。
「…何で?」
その目を見ることは出来ないまま疑問を疑問で返すと、小夜の小声が昨日の三年二組の昼休みの光景を話し始めた。