第2章 白夜
ガコッ!! ガコガコッ! ガコンッ!!
耳穴の奥の奥から会話の続きが蘇りそうだった、その時だった。
表紙の固い分厚い本が乱雑に本棚にぶつけられる音で、思考がプッツリと途切れる。
「ちょお、手伝ってぇや~!」
ほどなくして、図書委員の女子生徒の声が、この部屋にはおよそ相応しくない音量で財前の耳をつんざく。
見てみれば、大量の本が入ったカゴを傍らに置いた彼女が、向こうの本棚にいる図書委員に声を荒げていた。
大方、返却済みの本を本棚に戻す仕事を、一人でするのが面倒で他の図書委員に声をかけた…といったところだろうか。
って、図書室でどんだけ馬鹿でかい声出しとんねん。
しかも声が「おやつ~!!」とか言うて愚図りだす時の俺の甥っ子ソックリや。
女子生徒を観察しつつ心の中で毒突いていると、向こうの本棚の図書委員から「こっちも手一杯やから無理」とにべもなく断り文句が飛んでくる。
すると女子生徒の方は途端に顔を顰めて「チッ」と舌打ちをし、先程より乱雑な音を鳴らして作業の続きを始めた。
どんまーい
財前としては、第一印象でいけ好かないと思った奴の目論見通りにいかなかった事に、少し胸がすいた。
しかし、先程まで熱心に植物図鑑を物色していた小夜にとってはそうではないらしい。
「あの…私で良かったら手伝わせて貰われへんかな?」
トコトコと女子生徒の方へと歩み寄り、控えめな声の大きさで言いながら隣に立つのだ。
本人曰く「噂は誤解だと皆に分かってもらうための活動」の一環らしい。
小夜を白石の居る保健室に連れて行ったあの日から、(少なくとも財前の図書委員の当番の日には)こうした場面を財前は何度も目撃している。
そして声を掛けられた方が、願ってもいない申し出にパッと顔を輝かせるのも、小夜の顔を見た瞬間、今にも嘔吐しそうな顔を向けて
「いや、ええわ。アンタに頼んでへんし」
と、そそくさと退散していく瞬間も何度も目撃している。
小さく「あっ…」と声を出して、去っていく背中を寂しげに見送ったところで、カウンターを抜け出して、植物図鑑コーナーへ歩を進めた。