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【テニスの王子様】白のコルチカム

第2章 白夜


 四天宝寺中学の昼下がり。
 財前は、昨日の昼休みにあの煩い先輩たちから貰った紙を眺めながら図書室の当番をしていた。

 生徒も教師も、繰り出すギャグが一番強くなる時間帯でも、図書室は静かだ。
 と言っても完全に無音というわけではなく、閉め切った透明の窓越しに、グダグダなコントのセリフや観客の下品な笑い声が微かに聞こえてくる。
 財前としては、図書室くらいは完全な無音になる環境づくりをして欲しいものだと、切に思う。
 確かに、この学校では静かに過ごせる数少ない場所ではある。
 しかし、こういう静粛さを求められる部屋においては、その微かな音だって耳障りなノイズだ。

けど…。

 カウンターの近くにある植物図鑑コーナーにチラリと目をやる。
 周りには目もくれずに本を物色している幼馴染の高野小夜からすれば、この雑音は洒落たBGMと変わりないらしい。
 事実、小学生の頃の学校帰りに小夜の家に遊びに行って、そう言うと

『皆が賑やか中で自分の周りだけ静かな時って、自分の周りだけ時間が止まったみたいな特別な感じもせえへん?』

 と、澄んだ声でそう言った。
 財前の価値観を否定するわけでも、自分の価値観を押し付けるわけでもない。
 ただこんな見方も出来るのではないかと、同じようで違う世界を言葉で見せるのだ。
 まるで眠る前に、夢や希望を詰め込んだ絵本のおとぎ話を読み聞かすような優しい声で。
 その優しい声を聞きながら目を閉じられた頃は、確かに幸せだったのに。

 あれ…?

『光くん、おねがいがあんねん』

 いつからだろう。

『あんな…あしたから学校では、わたしのこと知らん人みたいに扱ってくれへんかな?』

 あの人の声を聞いても、安心して目を閉じることができなくなってしまったのは。
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