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【テニスの王子様】白のコルチカム

第2章 白夜


やっぱりな

 と、納得する財前とは裏腹に、三人の顔が信じられないものを見る時のそれになっている。

「っていうか謙也前も似たようなこと聞いてきたで? 俺、ちゃうって言うたやん」

 依然として若干の苛立っている雰囲気に、スパイスとして呆れの表情を加えたような顔で謙也に向き直る白石。
 一氏と小春の「オイ、どういうことやねん」という目線を肌で受け取った謙也が「で、でも…」と言葉を返した。

「そん時とは状況がちゃうやん!この前高野と喋っとった時メッチャ楽しそうな顔しとったで白石」
「挨拶してちょっと世間話しとっただけや」
「でも蔵リン、高野ちゃんのこと呼び止めてまで重たい荷物持ってあげとったやん…」
「いや、女子一人で持つんは大変そうやったし」

 真摯ではあるが、さっきのような慌てた素振りは見せない白石。
 風船から緩やかに空気が抜けていくように萎む謙也たちの勢い。
 そんな彼らの表情を一望し、小さく溜息をついた白石は子供に道を諭す親の口調で話し始めた。

「あんなぁ…確かに高野さんの事はええ子や思うし人としては好きやけども。そういうんとはちゃうねん」

 後頭部に回した手でグシャグシャ頭を掻きながら、ハッキリそう言った。
 そして、財前とのこと(と、自分が小夜にしたであろう『変なこと』)は伏せたまま、以前保健室で小夜と居合わせたことを話し始めた。

「それで、あの子も色々しんどかったんやなって分かって、もっと笑ってくれたらええのにって思た。けど、あの子が笑えるんやったら何でもええねん。それこそ、俺の事なんか忘れてもうてもな。もし恋やったら、そんなん嫌やってなるもんやろ?」
 
 部員たちは、そんな彼の言葉に一切口を挟まない。
 スキャンダルを前にした野次馬のような空気は、もう消え失せている。
 財前もほぼ他人事ながら、誤解とはこうして解けていくんだなと感想を抱いたくらいだ。

「…ホンマに?」

 静まり返った空気の中で、確認の意味を込めた謙也の問い。
 問い、と言っても、白石の言うことは信じている目をしていた。
 それなのに。
 白石は、とどめだといわんばかりに、眉根を不機嫌そうに寄せながらこう言ったのだ。



「ホンマや。第一、これから全国制覇しよかっていうとんのに、そんなモンにうつつを抜かしとう暇ないやろ」
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