第2章 白夜
「あんな…何か最近、めっちゃ女子と仲エエねん。好きなんかもしれへん」
真剣そのものといった顔つきで、そうのたまった謙也。に、財前の目から光が消えた。
今日は次から次へと鬱陶しいことが起こる日やな。
黙って耳を傾けてやったことを、心の底から後悔した。舌打ちをしなかっただけでも優しい後輩だろう。
イラつきを、本日二度目の深い溜息でどうにかやり過ごしてから、心なしかいつもより重たい口を開いた。
「…謙也さん」
「何や」
「去年からそれで何回泣きを見てきたんすか。ええですか? 謙也さんがナンボ相手のこと好きでも、相手は謙也さんのこと部長に近付くための踏み台くらいにしか思てませんよ」
「せやな。それで夜な夜な枕濡らしたっけ…って違うわ!! 好きなんかもしれへんのは俺やなくて白石や!! 白石!!」
主語なかったやんけ!!
これが部活の先輩じゃなければ、柄にもなく叫んで殴っていたに違いない。
そんな財前をよそに「俺らのクラスで高野って名前やねんけどな…」なんて、自分がそう思うに至った根拠たりえるエピソードを語り始めた。
謙也曰く、それは朝練後、自分たちの教室に帰って来てからの事だったらしい。
その日は、教室についた途端クラスメイトに呼ばれたので白石と別れて新しいクラスの友達のところへ向かった。
彼らと話していていると『えっ、そうやったん!?』とかいう、興奮気味の白石の声が聞こえてくる。
口は友達たちのために動かしつつ、アイツまた毒草の話で暴走しとんかと、声のした方に謙也は目をやった。
すると、ここ三年くらいの付き合いで、見たこともない白石がそこにいたのだ。
『教室で読んどったん植物図鑑やったんや! 難しい小説か思とったわ。花、好きなん?』
『うん…花も勿論やけど、その花それぞれにある花言葉調べるんが好きで…』
『ええよな花言葉。同じ花でも意味全然ちゃうヤツとかもあってオモロイよなぁ。俺も時々やけど調べるわ』
『そっか…白石くんの新聞小説にも出てくるもんな』
『そうそう!』
うふふ。あはは。
二人の雰囲気を擬音にすれば、こんな感じ。
背景にお花畑でも咲きそうなほど和やかな空気の中で白石と、その前の席に座っている小夜とが何やら親しげに会話をしていたのだ。