第2章 白夜
けど、財前の方はどうなんやろ?
あれから、ちょっと疑問に思っている自分がいた。
けれど何も知らない謙也たちの居るところで聞けば確実に騒ぎになるし、(我慢するところはおかしいけど)今まで高野さんが耐えていたことも無駄になる。
それに、彼女に関する話というのが、財前にとって触れてもいい部分なのかそうでないのか、測りかねているというのもあった。
けど、今なら…部室に俺と財前しか居らん今やったら…
心の中でグラグラ揺れていた天秤が、好奇心の方に傾いた。
「あんさぁ…」
「あの…」
言葉の先が繋げなかったのは、同時に声を発してしまったからだ。
そしてその後の「お先にどうぞ」まで丸かぶりになってしまった時は、まるで初恋同士の男女が感じるようなぎこちない雰囲気が俺らの間に流れる。
空気が鉛になって肌にまとわりついて、喋れなくなる前に俺の方から口を開いた。
「いや、財前に幼馴染居ったなんて知らんかったからビックリしたなーって言おうとしただけ。喋ってみて優しいええ子やって分かったし…財前のお陰やな」
「…本気で鬱陶しなる時ありますけどね」
着替えの続きをしながら、口をとんがらせていつも以上にとんがった口調で喋る財前。
そのトゲトゲしさは照れ臭さからくるもので、本心ほどキツく思っていないのは今までの付き合いで分かる。
その証拠に「けど、怪我したら心配で放っとかれへんねやろ?」「『ありがとう』とか言われたら嬉しいんやろ?」と意地悪く聞いてみると、「うっ」と図星を突かれたような顔をして
「別に…図書委員として図書室で怪我した人間連れてきただけっすわ」
「普通ありがとう言われて悪い気せんでしょ」
なんて、ますます照れくさそうに言う。
普段は小生意気な態度で、先輩さえ小馬鹿にするこの後輩の、滅多に見れない表情。
この時の俺は、それが見れて有頂天になっていた。
だから、この話題はもうおしまいと言わんばかりに「そんなことより」と、いつも以上にとげとげした声色の後に続く反撃に対応しきれなかったのかもしれない。