第2章 白夜
特に何があるわけでもないのに、いつもより早く起きてしまったから。
折角なのでこのままいつも通り支度し、いつもより早い時間に登校して部室の掃除でもしていようと、俺は朝練に一番乗りをした。
机に地面に、色んなものが乱雑している部室をひときしり見渡して、軽くため息をつく。
掃除用具を横目で見やった頃に、「ガチャッ」とドアノブが捻られる音がした。
時計をチラリと一瞥するが、朝練の準備開始するにしてもまだ早い時間。
なのにこんな早く人が来ると思っていなかった俺も、まさか自分より早く部室にいる人間がいると思わなかったソイツ…財前も、お互いの顔を見て目を丸くした。
「おはよう財前。今日は早いねんな」
「おはようございます…何か早よ起きてもうたんで来ただけです。家居っても暇やし」
目を丸くしたと言ってもほんの一瞬のことで、すぐに何事もなかったかのように「おはよう」と言い合う。
財前来たし今日はもう箒使う掃除は辞めとこか、と心の中で独りごつ。
そういえば、財前とこんな風に真正面で顔合わせたのはちょっと久々な気がした。
一応何らかの形で会話は毎日していたが、いずれも謙也たちなど混じえてのことだったから。
最後がいつだったか…なんてわざわざ記憶の糸を辿らずとも、数日前の保健室が頭にパッと浮かんだ。
未だにこの小生意気な後輩と、最近話すようになったクラスメイトが幼馴染だという事実を飲み込めてない部分がある。いや、あん時はホンマビックリした…。
『光くんまで嫌な人やって、皆に思ってほしなかったから』
『それであの子が、学校で肩身狭い思いせんで済むんやったらそれでええ』
俺のロッカーの隣の隣でテニスウェアを頭から被る財前を横目で見ながら、思い出すのは、水が肌に馴染むのと同じくらいスッと耳に入ってくる高野さんの声。
たった二言三言で、彼女が財前を大事に思っているのは伝わった。