第1章 朧月夜
それはもう大変な道のりだろうし、それで誤解が解ける保証はどこにもない。
卒業までずっとこのまま…ということもあり得ない話ではない。
それでも、最後まで諦めたくない。可能性があるのなら、それに縋りたい。もう自分からゼロにはしたくない。
夢物語に近いことを言っているにもかかわらず、白石くんは最後まで聞いてくれた。
そして、笑って言ってくれた。
「そない身構えんでも、自分で思とうより簡単に出来ることやで。絶対大丈夫」
笑い声混じりに言っていたけれど、真剣なその目つきが本気で言っているのだと教えてくれる。
私もそれに対して笑ってみたけれど、この次に言いたかった言葉を頭に浮かべていたからか緊張で引きつって見えたかもしれない。
「そ、それで…その…」
「ん?」
話は終わったと思ったのか、スポーツバッグを担ごうとしていた白石くんの動きが、ピタリと止まる。
放課後のざわめいた教室の声にかき消されないように大きな声で、かといって大きすぎないように気を付けながら息を吸った。
「たまにやったら…私から白石くんに話しかけても、あの…迷惑にならへんかなっ?」
声が三回くらいはひっくり返って、変な方向に弾んでしまった。
格好悪い。どう言えば感じ悪いと思われずに伝えられるかを考えながら、何度も頭の中で練習したのに、何一つとして生かせなかった。
きょとんとした顔を浮かべる白石くんに、フォローを入れようと慌てて口を動かす。
けど、霞みかかった思考をどうにか働かせて言っていることだ。自分でも何を言っているか分からない。
「律儀なんはええことやけど…イチイチそこで許可要らんくない?」
その中で、そう言った白石くんの表情が、少しムッとしたものになっていることだけはハッキリとしていた。