第1章 朧月夜
「…俺、『迷惑や』って言うような奴に見える?」
「そ、そんなとんでもない…!」
「でも、そんな風に聞いてくるいうことは『言われるかも』って事やろ? 傷付くわぁ…」
「えっ、あ…ご、ごめん…」
ムッとしたかと思えば、今度は眉根を切なげに寄せてシュンとした顔をする。
そうかと思えば、担ぎかけていたスポーツバッグを肩に掛けて「冗談や」と、屈託のない笑顔を浮かべたのだ。
「ええで! いつでも大歓迎や!」
これが少女漫画なら、きっと背景に向日葵の花でも咲くのだろう。そして、ヒロインの中では、この笑顔がずっと綺麗な記憶として残るのだ。
帰ったらすぐに、今の気持ちを手記に記そう。
初めて交わした「また明日」の約束で、今度こそ教室を出た白石君の背中を見送りながらそう思った。
そして今日を最後にして、この手記を書くのはやめにするのだ。
決意を新たにした今、もう自分の気持ちをノートに書く必要はないのだから。