第1章 朧月夜
例えば、小学生の時。
落ちていたクラスメイトの消しゴムを拾ったら、その瞬間を見ただけのクラスメイトに泥棒呼ばわりされたことがあった。
他にも、何もしていないのに「高野さんが睨んでくる」と言われたり、花瓶の水を変えようとしたら花を捨てるつもりだったろうと疑われたりと、他にも色々ある。
無論「違う」とは言った。けれど、信じてくれる人は居なかった。
何で信じてくれへんの? 誰かに聞いたことがある。
その時は答えてくれなかったけれど、廊下ですれ違った時、誰かは、私にではなく一緒に歩いていた自分の友達にこう言った。
「高野に『何で信じてくれへんの?』とか聞かれたけどさぁ…皆お前のこと嫌いやからに決まっとうやん」
聞こえてしまった内容の衝撃はもちろん大きかったけど、私の頭はすぐに新しい疑問で溢れかえった。
何で私、皆に嫌われてもうたんやろ
皆が嫌がるようなことしてもうたんかな
何があかんかったんかな
聞いても誰も答えてくれない。自分の胸に聞いてみても答えは出ない。
気付けば私は、広い学校の中で小さく体を折りたたむようにして生きていた。
「新しいクラス表出てんねんて!」
「ホンマか。早よ行こ」
トイレから出ると、足並み揃えて走り出す男子二人が目の前を横切り、ハッと我に返る。
彼らが走った後に生まれた風が緩やかに私の思考を遮り、彼らの後を追わせた。