第1章 朧月夜
小走りで廊下を抜けて、体育館に行き着いた頃には、人と人との僅かな隙間を縫うように歩かなければ前に進めないほど人で溢れ返っていた。
ぶつからないように慎重に奥へ進んでいくと、途中で色んな表情を浮かべる人たちが視界に留まる。
張り紙の前で、手を取り合って微笑み合う二人の女子生徒。
膝から崩れ落ちるほどに新しい教室に絶望する男子生徒。
休み時間には会いにいくから、と小指を絡ませあう恋人同士らしき男女。
そういう人たちを見ていると、こんな時に喜びや悲しみを分かち合う「誰か」がいないのは寂しいなと、思ってしまう。
寂しさが胸に穴を開けて、それがどんどん広がっていくような孤独感に陥ってしまうのだ。
感傷に浸るのもそこそこに、名前の羅列を一組から順番に目で追っていく。
途中で去年や一昨年、同じクラスだった人の名前、同じクラスになった事はなくても目立つ人の名前を見つけて
「この人今年は一組なんや」
なんて感想を挟みながら名前を目で追う内に、二組の十三番目に「高野小夜」の文字を見つけた。
去年の今頃は八組まで見に行くことになっていたっけと思うと今年はかなり早く見つかったなと、ホッと胸をなでおろした。
知っている名前と、知らない名前が半分ずつ書き連ねてある二組のクラス表を見終る。
この春新しくした上履きで、体育館の床を踏み鳴らして新しい教室へ向かう足取りは重かった。
今年は、誰かと仲良くなれたらええな
春になると、ほんの短い時間、ほんの少しだけ。淡い期待を抱いてしまう。