第1章 朧月夜
四天宝寺中学校。
神聖さと厳格さを余すことなく醸し出す鳥居が立つ校門を一度潜れば、たちまち笑いと人情に溢れる学校だ。
「いよいよクラス替えの紙張り出される時間やなぁ。皆一緒のクラスやったらええなぁ」
「せやんなぁ! ほんでウチ、アイツとだけはなりたないわ…高野小夜(こうの さや)」
「高野? ああ、あの綺麗で頭エエ子?」
「アイツ、一年の時同じクラスの田中さんのシャーペン盗ってんて」
「マジで!? 最低やん」
「噂によると小学校の時からそんなんらしいで。他にも、やたら睨んできたりとか~、教室の花捨てよったりとか。何せめっちゃ感じ悪いんやって~」
人情に溢れているからこそ、こうした人の感情も深く根ざしている。
小学校が六年、中学もこの春で三年目になるから、九年目になるのか。
今のように、ちょっとトイレに行けば個室のドア越しに自分の陰口大会が繰り広げられていた…なんて事が何十回あっただろう。
クスクス。笑い声と、忙しない足音が段々遠ざかっていくのを、耳は嫌というほど鮮明に感じ取っていた。
笑い声や足音が完全に聞こえなくなってから十秒くらいして、ドアを開ける。
滝のようにまっすぐ流れてくる水道水に両手を突っ込み擦り合わせながら、鏡に映る私をボンヤリと眺めた。
私は人に誤解をされることが多いような気がする