• テキストサイズ

【テニスの王子様】白のコルチカム

第1章 朧月夜


「その、ホンマに大じょ…」
「『大丈夫』は聞かへんからな」
「でも光くん、図書委員の当番はええの?」
「心配せんでもお前が冷やすやつもろたん見たら戻るわ」

あのドライな財前がそない真剣に人のことを気にかけるやなんて―…

 頭の中で彼がよく使う刺々しい言葉を反芻しながら、我が子の成長を見た親のような気持ちに浸る。
 お待ちどうさん、と氷のうを高野小夜の方に手渡す。ありがとう、と彼女が氷のうを右目に当てたその時だった。

―でも『光くん』、図書委員の当番はええの?

 流しかけていた言葉が、ふと頭の中で再生される。
 その瞬間、事件の犯人に繋がる決定的な証拠を見つけた刑事のような衝撃が頭にガツンと降ってきた。

「…さっき、『光くん』言わんかった!?」

 脊髄反射で叫んだ声は、保健室いっぱいにビリビリと響きわたる。
 高野小夜の口から小さく「あっ」という声が出るあたり、聞き違いでは無さそうだ。

 澄んだ声が、財前のことをファーストネームで呼んでいた。
 そして、財前もそれに一切ツッコミを入れず(嫌がらず)、普通に対応していた。
「もしかして」などと、考えるまでもない。

「…自分ら、知り合いなん?」

 驚きと、ついさっきまで夢にも思わなかった可能性に、心臓が早鐘を打つ。
 財前がチラリと彼女の方を見やり、こっちを向いて深い溜息を吐いてから、面倒そうに口を開いた。
/ 70ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp