第1章 朧月夜
「まぁ、家が隣で親同士が仲ええから…それ繋がりで知り合うただけですけど」
大した仲やないですけど、とでも言いたげなサラッとした口調だった。が、要は「幼馴染です」ということだ。
なぁ、嘘やろ!? 嘘やろ!?
けど現実、真実、事実は、まるで鉄パイプで殴られたような勢いで迫ってきた。
財前とは一年以上の付き合いになるのに、全く気が付かなかった。
でも、そう言われれば。
小春が友達越しに聞いたという彼女の話をした時、いじめっ子たちに対してのコメントが普段以上に攻撃的だった…ような気もする。
いや、それでも。
やはりこうして本人の口から言われるまで、気に留めることはなかっただろう。
「お前なぁ…そういうことはもっと早よ言いや!」
「すんません。誰も何も聞いて来ぉへんから」
「そら聞かへんわ! だって誰も思わへんし!」
悪びれた様子はおくびにも出さずそう言い放ち、壁にかかった時計を見て「あ」と小さな声を出す。
つられて時計に目線をやると、休み時間がもう半分を過ぎようとしていた。
「じゃあ俺…もう行くんで」
まだ話は終わってへんで! と肩を掴みたかったが、図書委員の当番がというセリフが会話にあったのを思い出しグッと堪える。
高野小夜の方をチラリと見て、「ちゃんと冷やしときーや」と白石に背を向ける。
「ごめんな、光くん。ありがとう」
という彼女の声に、「…別に大したことちゃうし」とぶっきらぼうに呟いてからピシャリと保健室の戸を閉めた。
閉ざされた保健室。二人だけ取り残された部屋。
財前がここから去っていく足音が段々小さくなって聞こえなくなると、世界が無音に包まれる。