第1章 朧月夜
「なぁなぁ! 今の一発芸ってどこでわろたらええん?」
言葉の半分も理解できないまま声がした方に顔を向けると、私の席の後ろに座っている男子が、真っ直ぐ森くんを見据えていた。
この前先生に頼まれた仕事を「手伝おか?」と言ってくれたすごく良い人で、名前はよく知っている。白石くん。
それまで機嫌良さそうに笑っていた森くんが、眉根を寄せて白石くんに突き進んでも、怯まず言葉を続ける白石くんを見て段々状況を理解していく。
もしかして私は庇ってもらっているのだろうか、と。
冷静に考えれば他に何があるのだという話だけれど、今まで庇ってもらえたことがなかったから、すぐにその答えにはいきつかなかった。
経験上、こういう時は皆の笑い声が収まるのをじっと待つしかなかったから。今回も、そんな風に事態は収集するものだとばかり思っていたのだ。
それに、ここまで露骨に嫌われ者扱いされるのも、それを庇われるのも初めてで、自分では手に負えない感情が次から次へと滝のように流れていた。
今まで否定され続けていた分まで、自分の存在を肯定されている気がしてすごく、すごく嬉しい。
でも、どうしてこんな私を庇ってくれるのだろう。気さくで、誰にでも慕われるような人が、どうして?
体中を、稲妻のように駆け巡る喜びと真面目な疑問が交互に飛び交い交錯していた。
呆気にとられて、口元を開けたまま二人の言い争いを見続けていると、ふと背後からいびつな空気が流れ込んできた。
「なぁ、何で白石が高野のこと庇っとん?」
「ウチに聞かれても…トモダチとか?」
「え~…白石くんあんなんと仲ええんショック~」
後ろの方で複数の女子の声がした。
その声が聞こえた瞬間、心臓がドクンと不規則に脈打った。