第1章 朧月夜
「え…白石、それホンマに言うてるんか」
「ホンマに言うてる。どこで笑うん」
「そんなんやからセンスがイマイチって言われんねんで? 自分」
さも出来の悪い教え子を諭す教師のようにして、森くんは続けた。
「ええか、白石。このギャグはなぁ、普通に考えて高野に告白なんか有り得へんやろって前提の上で始まる。それでも俺の腕で『ひょっとしたら森の奴、本気で言うとんちゃうん?』って聞き手をちょっとドキドキさせつつ、最後には否定して『やっぱり有り得へんのかい!』って終わるお約束のギャグやん…恥ずかしいから解説させんといてぇな」
そういう事を聞いとんちゃうねんけど
どうやら森くんには「行間を読む」という機能はついていないらしい。
いや、行間を読んだ上でわざとしているのかもしれない。白石にはどちらでも良いのだが。
「ふーん。なるほどな。けど、それってただの森くんの偏見やろ?」
胸糞悪いギャグの胸糞悪い解説に、努めて平静に糾弾すると「はぁ?」なんて刺すような威圧感を孕んだ声が飛んできた。
怯まずに、白石も次の言葉の準備をする。
「だって森くん、高野さんと仲ええワケちゃうやろ? やのに何で『有り得へん』って断言できるん? 世界中の男にアンケートでも取ったんか?」
「アホかお前。あんな奴と仲良かったら俺、クラスの笑いモンやんけ」
「えっ、笑いモンになりたないのに一発芸とかやったん? え、何で何で? 嫌やったらやらんかったらええやん!」
「しゃーないやろ。ババ抜きで負けたら皆の前で一発芸せえって話やってんから」
森くんの一言に、倍以上の言葉とウザさを返すたび、彼やお仲間たちのニヤケ顔が、段々しかめっ面になっていく。
何で俺だけ責められるねん。俺に罰ゲームさせたこいつらも同罪やろ
自身の一発芸を解説していた頃とは打って変わって、苛立ちを孕んだ森くんの声色は、そう言っているようにも聞こえた。
それには気付かないフリをして、白石は訊いた。