第1章 朧月夜
「あの、前から高野のこと…す、好きやってん…」
誰がどう聞いても、間違えようのない愛の告白。
照れくさそうに鼻を人差し指で擦り、つっかえながらも思いを告げる森くん。
告白された高野小夜は口元を抑え、元々パッチリとした大きな目を、更に大きく見開いた。
「せっ、せやからな…俺と…つっ、つっ、付き合うて下さい!」
森くんが、頭を下げてそう言った瞬間だった。
ワンオクターブ上がった声で紡がれた甘ったるい言葉に、鳥肌が立ったのは。
彼女には伏せている顔に浮かべた顔が、段々と醜く歪んでいったのが見えたのは。
忘れかけていた嫌な予感が黒い霧のように現れ、どんどん濃くなっていく。
比例するように、下卑た笑いを浮かべたままの森くんが、少しずつ顔を上げた。
頭上げんな。それ以上何も言うな。せめて黙って友達んとこ帰れ
再び彼女に向けられるであろう森くんの表情、そして次に出てくるであろうセリフが容易に浮かんで、そう願わずにはいられない。
白石が「やめぇや」と立ち上がるよりも早く。聞きたくない言葉を聞く瞬間が、訪れた。
「…って、そんな訳ないやないかーーーい!!」
刹那の間に、教室から空気という空気が消えたかのような静けさが訪れた。
しかし次の瞬間、そんな森くんを称えるように、教室のあちこちから、笑い声や拍手喝采がドッと噴き出る。
校長のギャグと同じくらい…いや、下手をすればそれ以上の盛り上がりようだった。
「めっちゃウケるー!」
「何や森! 今日は珍しく冴えとるやんけ!」
「最近で一番わろたわー」
彼女に一瞥もやらずに帰って来た森くんを、戦場から帰ってきた英雄のように称える彼の仲間たち。
下劣とも言える笑い声が、嫌にヒートアップした空間の熱をさらに上昇させていく。