第10章 事の発端①
「ったく、
お前があんな状態で来るもんだから
初めてここで
しちまったじゃねーか。」
シドがアヤセの服を着せながら話す。
「でもまさか本当にここの教師に
なっちまうなんてな。
たいした女だよ。」
……事の発端は、数年前にさかのぼる……
「もうクローズなんだけど。
てゆうかクローズも過ぎてるし!」
「あ?」
「掃除するから早く帰って。」
「ったく、うるせーな。
どうせまだお前はいるんだろ。
いいじゃねぇか。」
「だから掃除するのに邪魔なの!」
当時高校生だったアヤセは
このカフェでアルバイトをしていた。
学校が終わるとほぼ毎日
バイトに入っていた。
「わかったよ、出てけばいいんだろ。
…あ、そうだ。
俺、明日はゼミの勉強会あるから、
来れねーけど、
お前寂しすぎて仕事疎かになるなよ。」
そう言ってニヤリと笑うのは
当時大学生のシドだった。
「ならないし!
てゆうか、そう言っておきながら
どうせクローズ間際に来たりするでしょ。」
「お前よくわかってんなぁ。」
いつからかシドはここの常連客になっていた。
時には勉強したり、スマホをいじったり、
寝ていたり…。
アヤセとシドは
最初はとりとめのない
会話をしていたのだか、
そのうち、シドがアヤセを
からかうようになっていた。
最初は嫌だ、と思っていたアヤセも
今はタメ口で応戦するくらいになっていた。
今日も今日とて
お決まりの二人のやり取りを終え、
アヤセはシドを見送ると
ふぅっ
と一息つく。
そんな日々が続いたある日…
「じゃあアヤセ、
最後クローズお願いね!」
「うん。お疲れさま。」
アヤセと話すのは同じバイト仲間で、
アヤセは彼女と交代で
クローズと早上がりのシフトを組んでいた。
「あ、そういえば…」
バイト仲間がチラリといつものように
いるシドに目線をやる。
「あの人ほんとよく毎日来るよね。」
「え、あ、そうだね。
ここのコーヒー美味しいからね。」
「はぁ?あんた気づいてないの?」
「え?」
「あの人アヤセのこと好きなんだよ。」
「えっ!?」
思わず声が大きくなり、
慌ててその口を手で塞いだ。