第8章 国語の先生
アヤセの目がルイの手に移る。
ルイの演奏する手は
ルイの見た目と同じくらい
綺麗だ、とアヤセは感じた。
鍵盤を押す一つ一つの
指の先でさえ美しい。
そのときだった。
ゾクリ…
アヤセの中で目に見えない
何かがうごめく。
(…?何…?)
自分でもよくわからない経験に
不思議な気持ちになる。
ゾクリ…ゾクリ…
この不思議な気持ちは
次々に押し寄せてくる。
(な、なんなの…?)
その瞬間アヤセはハッとする。
それはルイが鍵盤を押すたびに
やってくるのだった。
…そう、アヤセは
ルイの綺麗な指先が鍵盤を押すたびに
いやらしくもその指使いに
感じてしまっているのだった。
ルイの指が鍵盤を押すたびに、
アヤセは敏感な場所をその指で
押されているように錯覚する。
何度も何度もその錯覚がやって来て、
身体中の敏感な場所がルイの指によって
刺激されてるようだった。
(う…うそ……)
そう気付いたときにはもう遅かった。
アヤセは込み上げる
熱い感情を押さえるのに
精一杯になっていた。
体を抱え込みうつむきながら
少し肩を震わす…
先程ジルによって
とろかされたせいもあってか
そこが疼いてしかない…
ルイにばれないよう、
荒くなりそうな呼吸を隠すように
ゆっくり深呼吸をする。
「…っ…はぁぁ……。」
演奏が終わり、
ルイはアヤセに視線を移す。
「…?
どうしたの?」
アヤセはハッとする。
「い、いえ、素敵な演奏で、
感動してしまいました…!」
少し弱々しくアヤセは答えた。
「そう…
こんな環境だからね。
こんな風にして気分転換でもしないと
やってられないよ。
もしよかったらまた弾いてあげるから、
いつでも言って…。」
「は、はい…ありがとうございます…。」
アヤセはルイの優しさを感じるも、
自分の状態が状態だけに、
後ろめたさを感じる。
(ルイ先生ごめんなさい…)
「あの、用事があって…失礼します…。」
「ああ…」
そうしてよろよろとしながら
音楽室をあとにする。