第37章 遊郭へ
「お前は…」
「俺はここに! 加勢しますッ!」
「ハッ、好きにしろ」
後を追わない炭治郎は、天元の手足となる覚悟だ。
一瞬の迷いもなく畳みかけるように言い切る庚の隊士に、天元は鼻で笑うも軽視はしていなかった。
善逸と伊之助の戦いは、今し方堕姫との帯戦で目の当たりにした。
相手は上弦だが格下の妹。
二人でも押さえられるかもしれない。
それよりも問題は、この目の前の兄の方だ。
「おい蛍」
「え? はい」
「お前は──」
「ククッ…クハハ…ッ」
敵から目を逸らさず指示を下そうとする天元に耳を傾けた時、蛍の耳に奇妙な笑い声が届いた。
蛍だけではない。天元と炭治郎もまたその不気味な笑い声に目を釘付ける。
「"自分がされて嫌だったことは人にしちゃいけない?"…ハハハハ…ッ」
まるで見えない誰かの会話を聞いているかのように、妓夫太郎が笑い出したのだ。
鋭い歯をがちりと慣らし、さも可笑しいと腹を抱える。
「違うなぁあそれは」
一転、声が尚低く下がる。
笑っていながら笑っていない。
冷たい目の奥でぎらぎらと殺気立つ圧が揺れている。
「人にされて嫌だったこと、苦しかったことを人にやって返して取り立てる。自分が不幸だった分は、幸せな奴から取り立てねぇと取り返せねぇ」
凝視する天元達を、妓夫太郎の冷たい目は見ていない。
否、見ていながらも更に別のものも見ていた。
妹の視界を通して見える、対峙する善逸だ。
「それがオレ達の生き方だからなぁ。言いがかりをつけてくる奴は皆殺してきたんだよなぁあ」
妓夫太郎の五感は、堕姫と共有することができる。
だからこそ妹が見聞きしたものが手に取るようにわかる。
善逸は堕姫が乱暴して傷付けた禿の少女に謝れと言ったのだ。
あの子達は所有物ではない。何をしても許される訳ではないのだと。
腹を抱えたくなる程に笑いたくなった。
金さえ稼いでいれば、この遊郭ではそいつが偉いのだ。
貧乏人を道具扱いしようと、欲の捌け口にしようと、なんだって許されるのだ。
そんな世界を知らない幼稚な一般論だと。