第7章 Coffee Breakをしよう①
しばらくすると、ぐつぐつと煮えるいい香りが漂ってきた。溶き卵を注いで蓋をし、数分。最後に刻んだネギをのせて、完成。
盆の上にホカホカと湯気を立てる器とレンゲをのせて、みなみさんがやって来る。
「お待たせ。どうぞ、召し上がれ」
「わ、ウマそう!いただきます!」
一口食べると、思いのほか腹が減っていたことに気付く。丁寧にとっただしの香りと生姜のスパイスがきいていて、俺は一口、また一口とレンゲを口に運ぶ。
「うん、ウマい!!」
「ふふふ、良かった」
目の前でパクつく俺を見ながら、みなみさんは満足げに微笑んだ。二人分の茶を淹れて、俺の斜め前に腰掛ける。
「早く治してね。せっかく東峰君も西谷君も戻ってきたんだし、孝支君が休んでちゃ元も子もないもの」
「はぁ…痛いとこついてくるべ…。みなみさんの方こそ疲れてんだろ?俺の風邪うつんないよーにな」
そう言って彼女の頭を軽く撫でると、くすぐったそうに目を閉じた。
同じ空間に二人っきりで、俺はこんなにもドキドキしていて、本音を言うともっと彼女に触れたくてたまらないのに、みなみさんにとって俺は、手のかかる弟とか親戚みたいなものでしかないんだろう。そうじゃなきゃ、こんな風に俺しかいないと知ってて無防備に家に上がり込むわけがない。
そんなの分かりきってたことだけど、こんな風に突き付けられるとやっぱり落ち込む。もちろん、こうして気にかけてくれるのは嬉しいけどさ。
「美味かった!ごちそーさまっ!」
気持ちを切り替えるように、俺は言った。
「料理の腕、上げたんじゃないの?」
「そりゃあ、大学の四年間で一人暮らししてれば料理だってするわよ」
「それもそうか。みなみさんちゃんと自炊しそうだもんな」
「節約しなきゃいけなかったしね。孝支君はどうするの?大学、行くんでしょ?」
「うーん、一応進学クラスだしなぁ…。受験はするつもりだべ。一人暮らしも憧れはあるし、やってみたいとは思うよ」
「そっか…。いいな、私ももう一度大学に戻りたい」
そう言ってみなみさんは懐かしそうに目を細めて笑った。
大学と聞いて、この前のアイツ
ーーー藤宮の顔が浮かぶ。