第7章 Coffee Breakをしよう①
「この前言ってた大学の先輩…藤宮先生、だっけ?みなみさんの元恋人なんだろ?」
「え…?」
みなみさんが目を見開く。
「な、なんで…?」
「いや…、なんとなく、さ」
俺がそう言うと、目の前の彼女は視線を手元の湯呑みに落とした。
そのくらい、この前のやり取りを聞けば分かる。二人の間に何かわだかまりがあることも。
しばらく黙ったあと、観念したように、こくんと小さく頷く。
「……大学の時付き合ってたんだけど、お互い忙しくなってなかなか会えなくなってね。連絡もままならなくて、そのまま…」
「…自然消滅ってやつ?」
「うん…、そんなトコ」
「…でもまだ好きなんだろ?あの人のこと」
視線を落としたまま、みなみさんはふっと笑った。泣きそうになるのをそうやって誤魔化すみたいに。
「どうだろ…多分、まだ好き…だと思う」
聞きたくなかったその言葉に、ギシリと胸の奥がきしむ。心臓を直接握り潰されたみたいに苦しい。うまく呼吸ができない。それでも俺はなんとか息を吸い込んで続けた。
「…それならさ、また付き合えばいいじゃん。自然消滅なんだろ?向こうだってみなみさんのこと気にしてたし、可能性がないわけじゃないべ?」
(嘘だ)
「いいじゃん、真面目そうな人だったしさ。お互い教師なら支え合えるだろ」
(それも嘘だ
ホントはそんな風に思ってない)
想いとは裏腹な言葉だけはなんでかスルスルと口をついて出て来る。彼女へ当てつけるように、俺は並べ立てた。
「まだ好きだって、言ってみればいーべ」
だけど、みなみさんの返事は予想外の言葉だった。
「……だって、彼にはもう恋人がいるもの」
「え…」
「今、私も知ってる女の子とお付き合いしてるの。だから、今更私なんかが邪魔しちゃいけないのよ」
なんだよ、それ。連絡を取らなくなって、会えなくなって、それでみなみさんを捨てて別の人を選んだってのかよ。
それが、この前聞いたユリって人の事なんだな、と分かった。