第7章 Coffee Breakをしよう①
みなみさんは勝手知ったりという様子で、まっすぐキッチンに向かい、両手のレジ袋をカウンターに置いた。俺は急いで顔を洗い、ヨレヨレのジャージからもう少しマシな服に着替えた。リビングのイスに腰掛け、キッチンのカウンター越しにあれこれと準備をするみなみさんの背中を眺める。
病み上がりのボンヤリした頭で見つめていると、こちらを振り返ったみなみさんと目が合う。そして優しく微笑んで言った。
「何か食べたい物はある?」
「んー…ホントは激辛麻婆豆腐が食いたいって言いたいとこだけど、今はやめとく」
「ふふふ、そうだね。…じゃあ、お粥でもいい?材料も買ってきたし」
「ん、ありがと」
みなみさんはスーツの上着だけ脱いで俺の向かいのイスに掛け、早速調理に取りかかった。具材を刻む包丁のリズムが耳に心地良い。手際よくテキパキと動くその背中を眺めながら、新婚さんってこんな感じなのかな、なんてバカなことをぼんやり考える。
「今日は烏養さんも部活に来てたわよ」
声をかけられて我に返る。
シンクで手を動かしながら、みなみさんは言った。
「このままずっとコーチでいてくれるといいのに…」
「まぁ、合宿終わるまでだって話だったからな…。烏養さんだって仕事だとか色々あるだろーし。…てゆーか、みなみさん今日も仕事?休みなのに働きすぎじゃねーの?」
「ん、まだ慣れなくて追いつかないのよ…。でもそのおかげで部活も覗けたし大丈夫」
そう言って微笑む目元には、薄っすらとクマが浮かんでいた。
…何言ってんだよ。不器用なくせに真面目で頑張り屋で、そのくせそれを表に出さないトコは、昔から変わってないんだな、ホント。
「…あんま無理すんなよ。まぁ、風邪引いて飯作りに来てもらってる俺が言うのもなんだけどさ」
「うん、ありがと」