第6章 エースの帰還
後衛のプレイヤーがレシーブで受けて、孝支君の真上に上がった。
孝支君がボールを見上げる。
膝を曲げ、踏み込み、フワリと跳ぶ。
トン、と触れる音がして、弾かれたボールは
町内会の嶋田さんの頭上に上がった。
祈るように孝支君を見つめていた私には、その動きがまるでスローモーションのようにゆっくりと、輝いて見えた。
(綺麗……)
影山くんのように一切無駄のない精密なトスではないかもしれない。だけど、孝支君のトスは誠心誠意を込めた、打つ人を思う優しいトスだった。それは、まるで孝支君自身を反映しているような、そんな気がした。
「わぁ…」
思わず小さく声が漏れて、慌てて口をふさぐ。今日は隣でノートにデータをとっていた清水さんが、柔らかく笑った。
「先生、菅原のちゃんとしたプレー見るの初めてですよね」
「うん、そうなの。みんなで練習してるところは見たことあるけど、試合になると空気が違うね」
「そうですね、知らない人達とやる緊張感もあると思うんですけど、でも…」
不意に口をつぐんだ清水さんに、私は首を傾げる。清水さんは孝支君を見つめて眩しそうに言った。
「今日の菅原、ちょっと嬉しそう」
「そうなの?」
冗談を言って笑っている時とは違う、絶対にボールを落とすまいとする真剣な表情。私には、嬉しそうというよりもただひたむきな姿に見えたけど、ずっと見てきた清水さんが言うならきっとそうなんだろう。
前衛の東峰君が高くジャンプする。
背中をしならせ、
腕を振り上げ、
強烈なスパイクを叩き込む。
ーーーけど、そのスパイクは田中君、月島君、影山君のブロックの壁に弾かれてしまった。
「あぁっ、惜しいっ…!!」
思わず声を上げると同時に、隣にいた清水さんが静かに言った。
「…大丈夫です」
「え…?」
「後ろには西谷がいますから」
ボールが床に触れるかと思ったその時、
西谷君がギリギリでボールを拾う。
ボールはもう一度孝支君の元へ上がった。
孝支君がトスしようと構えたその時、
東峰君が片腕を上げ、大きく叫ぶ。
「スガーーーーーー!!!!」
その声が体育館中に響く。
驚いて、全員が東峰くんに注目した。
「もう一本!!」