第6章 エースの帰還
孝支君は黙って首を横に振り、言った。
「…違うよ、影山」
「じゃあ、なんでそっちのチームなんですか?烏野の正セッター、俺じゃなくて菅原さんですよね」
「……俺は、影山が入ってきて正セッター争いしてやるって思う反面、どっかでホッとしてた気がする。圧倒的な実力の影山の陰に隠れて、安心してたんだ…。正直、スパイクがブロックに捕まる瞬間を考えると今も怖い。でも…もう一回、チャンスをもらったから」
孝支君は、東峰君を見つめる。
東峰君は複雑な顔でその視線を受け止めた。
「だから、俺はこっちに入るよ、影山。絶対、負けないからな」
「……俺もッス」
小さく返事をして、影山君は自分のチームのコートへ入る。すぐそばで止めに入るべきか身構えていた田中君が、ほっと胸を撫で下ろした。私も自分の肩の力が抜けるのを感じた。この前の青城戦の時、新入部員の影山君をスタメンとして出すのを、武田先生が気にしていたからだ。
そうよね、3年生の孝支君からすれば、新入部員の影山君に自分のポジションを奪われるのは悔しいはずだもの…。
孝支君をそっと見つめる。その視線に気付いたのか、孝支君はふっと目元を緩めて笑った。
「なんだよ、なんで野村先生がそんな顔してんのさ?」
「だ、だって…」
「あ、そーいえば初めてだよな。野村先生が試合形式で俺のプレー見るの」
言われてみればそうかもしれない。通常練習のときの様子は少しだけ見たことがあるけど、3対3の時もこの前の練習試合のときも、孝支君はずっと私の横にいてくれたから。
「あ、うん、そういえばそうかも…」
「そんじゃあよく見ててよ。影山みたいにはいかないだろうけど、あとで感想聞くから!」
「うん、分かった!頑張って!」
私が声をかけると、にっと笑顔を見せてコートに向かって行った。
『ピーーー!』
試合開始の合図が鳴る。
始めは烏野バレー部のサーブ。ボールが上がり、緩やかな放物線を描きながら町内会チームーーー孝支君側のコートにボールが落ちてゆく。