第6章 エースの帰還
「フン…どっちにしろ、俺はコーチなんてやらねーぞ。悪いが誰か別のヤツを探してくれ」
「さ、出てった出てった!」そう言って私と武田先生の背中をグイグイと押し戻す。
「わ、わわわっ…」
「そ、そこまでして断り続けるのは、何か理由があるんですか!?」
入り口まで押し出したところで、烏養さんは力を緩め、ポツリと呟いた。
「…アソコにはもう戻りたくねーんだよ」
「え…?な、何か嫌な思い出でも…?」
「いーや、その逆だ!!」
「ど、どういうことです…?」
咳払いをして烏養さんは続ける。
「…あそこには青春が詰まってんだよ。あの体育館とか部室が昔と変わらなくても、俺があの空間に戻ることは絶対にできない。あそこに戻ってどんだけ近づいても、もうそこは俺のいた場所とは別モンなんだ」
武田先生が、顎に手を当ててため息混じりに言う。
「ノスタルジーですかぁ…いいなぁ…」
「うっせーな!」
でもその気持ちは、私も分かる気がする。生徒達を間近で見ていると、羨ましくなったり、なんであの時もっと頑張らなかったんだろうと後悔したり…。烏野高校に赴任してから、そんなふうに感じる瞬間がいくつもあった。
「…私も、なんとなく分かります、そういう気持ち。一生懸命部活に打ち込んでいる彼らを見てると、特に」
「だろ?…だから、あの体育館が好きだからこそ、俺は戻りたくない!」
武田先生は少しの沈黙のあと、意味深な目で私を見つめた。そして烏養さんに向き直り、口を開く。
「音駒高校が来るとしても?」
「音駒…!?」
烏養さんは面食らった顔で武田先生を見つめた。
「向こうは烏養監督と親交の深かった猫又監督が最近復帰されたそうで、それを機に練習試合を申し込んでみたんです。烏養君たちの時代は、一番音駒高校と交流の深かった時期では?」
「あ、あぁ…」
「そういえば、7、8年前に音駒でセッターだった方が、今コーチをされているそうですよ。その頃は烏養くんも現役の頃だから顔見知りかもしれないですね」
「…………」