第6章 エースの帰還
「さて、着きました!」そう言って武田先生は足を止めた。私達の目の前には、見慣れた“坂ノ下商店”の看板があった。
「え…まさか、ここですか…?」
あっけにとられる私をよそに、武田先生は物陰から店内の様子を伺っている。
「えぇ、ちょうどお客さんもいないようですね…」
戸惑う私を気にも止めず、武田先生は意を決して引き戸を開けた。
「ごめんください」
「らっしゃーい…なんだ、またアンタか!ったく、本当にしつけーセンセイだな…!!」
レジで新聞を広げくつろいでいたその人は、武田先生の顔を見るなり苛ついたため息を一つついて立ち上がった。咥えていたタバコを、手元の灰皿に押し付けて乱暴にもみ消す。
金髪の伸び切った髪はカチューシャで無造作にまとめられ、耳にはシルバーピアス、吊り目にハスキーな低い声。この坂ノ下商店で買い物をしたとき、何度か対応してくれた男の人だった。
いかにも“元不良”という身なりに、私はこの人がいるといつも身がすくんでしまうのだ。
「ん…?」
目の前の男の人は、武田先生の背に隠れた私に気付き、片方の眉を上げた。
「なんだ、この前の肉まんの姉ちゃんじゃねーか。なんだ?今日も肉まんか?」
「に、肉まん…?」
「ホレ、この前買っただろ。ちょうど2個残ってたやつを女一人で買ってったからな、覚えてたんだ」
そういえば、この前孝支君と一緒に帰ったとき、ここで肉まんを買ったっけ…。
「何個だ?」
言いながらレジ横の保温器を開けようとする彼を静止して、私は言った。
「き、今日は肉まんじゃありませんっ…!!」
「へ…?」
予想以上に大きな声が出てしまい、私は恥ずかしさで顔が熱くなった。目の前の彼も目を丸くしている。間に入り、武田先生が助け舟を出してくれた。
「えっと…この人は、僕と同じ烏野高校バレー部の顧問で、野村先生といいます。野村先生、こちらは前監督のお孫さんで、烏養繫心君です」
「お、お仕事中にすみません。烏野高校で教師をしております、野村みなみと申します」
私が頭を下げると、目の前の烏養さんはフーッと息を吐いて頭を掻いた。
「なんだ、そーいうことかよ…俺がコーチを引き受けないから女のセンセーまで引っ張り出してきたわけだ」
「ち、違いますっ!私は自分の意思でここにお願いしに来ました」