第6章 エースの帰還
畳み掛けるような武田先生の言葉に、烏養さんが目を伏せる。長い長い沈黙に、私は息が止まる思いで二人を見比べた。
ど、どうしよう…。
「あの……」
私の言葉に、烏養さんの声が被る。
「おい……」
「はい?」
「煽ってんのかテメエェェェェ!!!!」
「わあぁぁぁぁぁぁ!?」
突然烏養さんが武田先生の胸元に掴みかかった。私はビックリして思わず声を上げる。
「きゃぁぁぁぁ!お、お、おおっ、落ち着いてくださいぃ!!」
「すみません、すみませんっ!!!!」
「ふざけんな!そんなあからさまに煽られてなァ、俺が乗っかると思ってんのかァ!?」
そう言って烏養さんは放り投げるように武田先生を離した。そしてぶっきらぼうに付け加える。
「んで、練習何時からだ!!?」
「へっ…!?」
「あの音駒と対戦するってのにみっともない後輩見せられっか!準備してくっからそこで待ってろ!!」
ズンズンと店に入っていき、坂ノ下商店のエプロンを脱ぎ捨てる。私と武田先生はようやくその意図を理解して、笑顔で顔を見合わせた。
『あ、ありがとうございますっ!!』
「あーっと、そうだな…とりあえず、今の烏野のレベルが知りてぇから、いっちょ試合でもやってみっか」
言いながら烏養さんはジーンズのポケットから携帯を取り出し、ボタンを押し始めた。
「試合…?」
「あぁ、俺がやってる町内会チームとな…おぉ、たっつぁん、今日これから空けらんねーか?」
電話で話し始めた烏養さんを前に、武田先生がほっと胸を撫で下ろして小声で言う。
「とりあえず、一旦はコーチを引き受けてもらえそうで良かった…」
「ふふ、武田先生が粘ってくれたお陰ですね」
「そ、そんなことないですよ…あっ…!」
照れ笑いをしながら、先生は何かを思い出したように私を見た。
「野村先生、そろそろ戻らないと教頭先生が待っているのでは?」
「あっ、そうでした…!!」
教頭先生のことだ、あまり長時間待たせるのはマズイかも…。
「こちらのことは僕に任せて、野村先生は先に学校へ戻ってください」
「すみません、私も用事を済ませたら部活に顔を出しますので…」
電話中の烏養さんにも会釈をして、私はその場をあとにした。校舎へ続く坂道を駆け足でのぼる。これから進化するであろう烏野に、わくわくと弾む胸を抑えながら。