第6章 エースの帰還
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翌日の放課後、武田先生と私は早めに仕事を済ませ、荷物をまとめた。連れ立って職員室を出たところで教頭先生と鉢合わせ、パチリと目が合う。
…あ、嫌な予感…
「野村先生!ちょっといいですかな?」
予想通り、教頭先生はこちらを見上げてにんまりと笑顔を作る。教頭先生に捕まると何かと長くなって面倒なのに、よりにもよってこのタイミングで捕まるなんて…。
「あ、で、でもこれから出かける用事が…」
「では、戻ってからで構いません。次回の職員会議のことで確認したいことがあるので…」
「わ、分かりました…」
しぶしぶ了承すると教頭先生は満足げに頷いて、自分の席に戻っていった。帰ってきたらそのまま部活に顔を出すつもりでいたのに…。そんな私を見て、武田先生は苦笑いをして言った。
「あらら…捕まっちゃいましたね…」
「すみません…」
「まぁ、今すぐ手伝えと言うわけではないですから。こちらはこちらで用事を済ませてしまいましょう」
「はい…」
職員用の出入り口を出て、校門を抜ける。学校の前の坂道を下りながら、武田先生が隣でため息をつく。
「はぁ…今日こそコーチの件、了承してもらえるといいんだけど…」
「そんなに何度もお願いされてたんですか?」
「えぇ、かれこれ10回くらいは…」
「そ、そんなに…!?」
武田先生だって担任のクラスを抱えて私以上に大変なはずなのに。
「よっぽどコーチとして優れた方なんですね…」
「去年までバレー部の監督をしていた方のお孫さんなんです。監督本人は、体調を崩されまして、復帰の目処が立ってなくてですね…」
「あ、前に上級生たちが話していたのを聞きました。なかなかのスパルタだったって…」
「ははは、そうらしいですね。…実は音駒高校との練習試合を取り付けたのもそのためなんですよ。今日合う人は、烏野バレー部のOBでもあるんです。彼が在籍していた頃の烏野の因縁のライバルが音駒高校。その学校と久々に対戦となれば、もしかしたら彼も動いてくれるかもしれません」