第6章 エースの帰還
窓に近い一番後ろの席。
相変わらず猫背ぎみのでかい身体。
座ったままクラスのヤツらと何やら談笑している旭がいた。
「旭!」
俺が呼ぶと、驚いた顔で旭は振り向いた。
「スガ…」
ほんの数秒目が合う。それからすぐに気まずそうな顔で、旭は視線を反らした。
…ひるむな。ここで引き下がったら、きっとこのまま何も変わらない。こんな中途半端な、宙ぶらりんの気持ちのままではいられないんだ、俺は。
周りの生徒の視線も気にせず俺はその場に割って入り、座ったままでいる旭を見下ろした。
「旭、ちょっと話したいことがあるんだ。今いいか?」
「あ、あぁ…」
戸惑いながら旭は答えた。さっきまで話していたヤツらもなんとなく空気を察したのか、黙って席を外してくれた。
「…ごめん、突然。でも、どうしてもお前と直接話しておきたかったんだよ」
「なんか…スガと話すの久しぶりで変な感じだな。どうした…?」
「旭…、俺ずっと謝りたくて…。この前の試合で旭一人に負担かけたこと、ずっと後悔してたんだ。ほんとにゴメン」
そう言って、俺は頭を下げた。
旭が息を飲むのが分かった。
「お、おい…スガ、頭上げてくれ…」
俺が顔を上げると、旭は戸惑いながらも穏やかな口調で続けた。
「……そんなことねーべよ。あれは俺の力が足りなかったんだ。スガも西谷も責任感じることなんかない」
「旭こそ、なんでそうやって一人で背負い込むんだよ。お前が烏野イチのエースだってことはみんなが認めてる。あの試合は、俺達全員の力が足りなくて負けたんだ」
「………」
「悔しいけど、一年にすごいセッターが入ってきた。小さいけど瞬発力のある“最強の囮”もいる。お前と並ぶくらいタッパのあるブロッカーだって増えた。今度はお前だけに負担をかけなくて済むんだ」
「…………」
「旭、バレー部に戻ってきてくれよ。西谷もようやく戻ってきたんだ。みんなお前を頼りにしてる。エースのお前がいるだけで、みんな何倍も心強いんだ。だから、頼む…!」
長い長い沈黙のあとで、旭がそっと口を開いた。
「……そっか、西谷が戻ったんだな。良かったじゃないか」
「…だけど悪い」そう前置きして旭は柔らかく微笑んだ。
「気持ちは嬉しいけど、俺が戻ってもまた皆に迷惑かけちまう。俺は、もうエースなんて呼んでもらえる立場じゃないんだ」
