第6章 エースの帰還
あくびをしながら背すじを伸ばす俺を見て、大地が言う。
「目の下、クマできてんぞ。どーせ考え事でもしてて眠れなくなったんだろ」
「うぅっ…」
目ざとい再び…。
大地は小さくため息をついたあと、苦笑混じりに言った。
「…スガ、あんま考えすぎんなよ。たまにはシンプルに考えることも必要だと思うぞ」
「ん、そーいうもんかな…」
「そーいうもんだ」
キッパリと断言して、大地は俺の肩を叩いた。
ここ最近、大地は一回りデカく、逞しくなったように感じる。一コ上の先輩が卒業し、主将として部を引継いだ責任感がそうさせるのかもしれない。そしてこういう時、大地はむやみに踏み込んでこないヤツだ。無関心なわけじゃなく、それは大地なりの信頼の証なんだと思う。
俺だって、これでも烏野の新しい副部長だ。頼りない姿ばかり見せる訳にはいかない。
「…サンキュ、大地」
「おいおい、俺は何もしてないぞ」
そう言って大地は片手を上げ、「じゃ、部活遅れんなよ」とだけ言い残して教室を出ていった。その背中を見送ってから、俺はギュッとこぶしを握る。
「…よし」
人知れず気合いを入れて俺は立ち上がった。
向かうのは別のクラス
ーーー東峰旭の教室だ。
みなみさんと並んで帰ったあの日から、西谷が戻ってきたら旭と話すと決めていた。でも日ごとに不安は大きくなる一方だった。俺は旭ときちんと向き合えるんだろうか。あいつのエースとしての誇りを潰したのは、この俺自身なんだから。
手のひらがじっとりと汗で濡れる。俺の顔なんか、これっぽっちも見たくないかもしれない。バレーの話なんか、本当は聞きたくないかもしれない…。いろんな言い訳が浮かんでくる自分を奮い立たせるように首を振り、俺は深呼吸して旭のいるクラスの扉を開けた。