第6章 エースの帰還
早朝から降り続いた雨は夕方になってようやく上がり、とり残された分厚い雲がしぶとく空を覆っていた。じっとりと湿気を含んだ空気がまとわりついてきて、憂鬱な気分をより一層重たくさせる。
6限目の授業を終えて放課後を告げるチャイムが鳴ると同時に、俺は気が抜けたようによろよろと机に倒れ込んだ。一昨日の練習試合が終わってから、実はあんまり眠れずにいる。朝夕の部活と授業の予習に加えてこの寝不足はさすがにこたえた。出来ることならこのまま動きたくない…と思っていた俺に、部活用のバッグを提げた大地がお構いなしに声をかけてくる。
「スガ、寝てないで部活行くぞ」
俺はそのままの体勢で、顔だけ大地に向けた。
「…あ〜、悪い大地。俺ちょっと用事あるから、今日は先行っててくんない?」
「?…おう、分かった」
返事をしてから、大地は見てたぞ、と言わんばかりに付け加える。
「お前、さっきの英語の授業寝てたろ」
「うっ…」
目ざとい…。
「珍しいな、寝不足か?」
「あぁ、うん…まぁそんなとこ」
答えて俺は身体を起こす。
理由は自分でも分かってる。
一つは、青城との練習試合の後で聞いてしまった、みなみさんと藤宮の会話だ。みなみさんに八つ当たりのように接した自分が情けなくて、かと言って謝るのも違う気がして…。そうこう考えているうちに、あの日バスに乗り込んで以来一言も口をきかず、目も合わせられないでいる。よけいな嫉妬心から取ってしまった自分の行動が、冷静になってみるとひどく子供じみていたように感じられた。
それからもう一つ。旭のことだ。1ヶ月の部活禁止が解けて、昨日リベロの西谷が久しぶりに顔を出した。明朗快活という言葉を絵に描いたような西谷は、相変わらずパワフルで賑やかで熱いヤツで…。だけど、肝心の旭が未だ部活に来ないことを知り、逆上して再び体育館を出て行ってしまった。日向のお陰でその場はなんとか丸く収まったけど、旭が戻らない限り、西谷も完全復帰はしないつもりのようだ。