第6章 エースの帰還
それから毎週その講義で誠人君の姿を探した。彼も私を見つけると声をかけてくれたし、私も彼に話しかけるようになった。
誠人君は、引っ込み思案な私の心に、そっと入り込んでくるような人だった。そのうち講義以外でも待ち合わせして会うようになり、一緒に食事をしたり、レポートの準備をしたりするようになった。そうして私は、いつの間にか彼を好きになり、お互い付き合うことになった。
それが確か10月の初めの頃。
だけど冬に入ると、誠人君は卒論の仕上げにかかりきりになって、なかなか会う時間がなくなってしまった。卒業した後も、彼は赴任先の学校の仕事に追われていたし、私も新しいゼミのレポートに忙しくて、お互いに余裕がなくなっていた。
本当はすごく会いたかった。
声を聞いて、安心したかった。
でも、忙しいのに連絡したら迷惑なんじゃないかという余計な不安が頭をもたげて、私からはなかなか連絡できずにいた。今思えば、もしかしたら誠人君も同じ気持ちだったのかもしれない。
そのうち会う回数も少しずつ減っていって電話やメールだけになり、やがてそれもなくなって、私達はお互いの気持ちも分からないまま連絡をしなくなった。
それから一年後くらいだった。風の便りで、誠人君が私の友達の一人、友梨と付き合い始めたと聞いたのは。