第6章 エースの帰還
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しとしとと屋根を叩く雨の音で目が覚める。
カーテンから覗くと、外はまだ仄暗い。人も動物もまだ寝静まっていて、雨の音以外はみんな息をひそめている、そんな静かな朝だ。
少し肌寒い空気に、私はもう一度布団に潜り込んだ。
起きぬけのぼんやりとした頭で思い返してみる。最後に誠人君に会ったのはいつだっけ…。
そう、あれは確か3年ちょっと前。久しぶりに休日に時間が取れて、一緒に食事と買い物をしたんだった。その頃はもうあまり連絡を取らなくなっていたから、お互い一緒にいても何を話していいのか分からなくて、なんとなく気まずい空気のまま夕方には駅で別れた気がする。別れ際、誠人君が寂しそうに笑った顔を今でも覚えてる。
『…今日はレポート大変なのに付き合わせて悪かったな。次からはなるべくみなみの負担にはならないようにするから』
『ううん、こちらこそ…忙しいのに会ってくれてありがと…。そっちも頑張ってね』
『あぁ…じゃあな』
頭の中でリフレインされる会話に、私はそっとため息をついた。
きっと、お互いを気遣いすぎたんだ。
会いたいときは会いたいと、淋しいときは淋しいと言えばよかっただけのに、二人ともそれができなかったんだ。
友梨のことは、別に怒ってるわけじゃない。
もちろん知った時はショックだったし、これ以上ないくらい落ち込んでしまったけど…。ただ、ちゃんと互いの気持ちを言えないまま、糸が切れるようにプツリといつの間にか終わってしまっていた事が、その時は悲しくて辛かった。
「……誠人君、元気そうだったな…」
きっと、友梨とは上手く行ってるんだろう。
どうか今度は誠人君が幸せになれますように。
まどろみの中でそんなことを思いながら、
私はもう一度眠りに落ちた。