第6章 エースの帰還
とても久しぶりに、彼ーーー
誠人君の夢を見た。
きっと一昨日、偶然彼と再会したせいだ。
誠人君は同じ大学の同じ学部で、
3つ年上の先輩だ。
私が1年生の後期に履修した授業で、
たまたま隣に座っていたのが彼だった。
「……ここまでの説明で分かると思いますが、テキスト問5の答えはどれですか?…ではそこの学生、答えてください」
教壇の教師と目が合って、私は一瞬遅れて自分が指名されたことに気付いた。
「は、はいっ…!えっと…」
慌てて立ち上がったけれど、急なことにすっかり動揺してしまった私は、手元のテキストの文字をただひたすら目で追いかけることしかできなかった。
その時、すぐ横から小さく声が聞こえた。
「…Aだよ、A」
見ると、端正な顔立ちの男の人が、自分のテキストを指差して微笑んでいる。私はすかさず答えた。
「え、えっと、A、です…」
「そうですね。では解説に戻ります」
そう言って教授はまたくるりと背を向け、板書に戻った。
ホッと息をついて座り直し、隣のその人にペコリとお辞儀をする。
「ありがとうございます」
その男の人はニコリと笑って、ウインクで応えた。授業が終わったあと、私はもう一度隣のその人に声をかけた。
「あの…、さっきはありがとうございました」
「あぁ、いいよいいよ。あの教授、毎年同じ質問してくるんだ。まぁ、うちのゼミの先生なんだけどさ」
軽やかに笑って彼は続けた。
「俺、藤宮誠人。4年だからホントは受講しなくてもいいんだけど、教授が授業に出ろってうるさくてね。仕方なく履修してるんだ。君は?」
「1年の野村みなみです。履修表で面白そうな授業だったので受けてみることにしたんです」
「1年生か!1年ならまだゼミ選択はこれからだよな。うちのゼミに興味があるならいつでも案内するよ。この授業にも毎回出てるから、分からないことがあれば教えるし。そのときは気軽に声をかけてくれて構わないから」
「じゃあまた来週、野村さん」と片手を上げてその人は立ち上がり、爽やかな笑顔で教室を去っていった。