第5章 練習試合と邂逅
バクバクと速くなる心臓の音。
手のひらが汗でべとべとする。
こんな風に盗み聞きするつもりはなかったのに何やってんだ、と咎める自分と、こいつとみなみさんの関係を知りたいと思う自分が、頭の中で反発しあっている。
俺はつばを飲み込んで、息をひそめた。
低い声と、みなみさんの声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「…今日はびっくりしたよ。まさかバレー部の副顧問だとは思わなかったからさ」
「…ん。私も」
「…いや、ホントに、元気そうで安心したよ。…こんなこと俺が言えた立場じゃないけど、ずっと心配してたんだ。あのとき俺が友梨のことーーー」
「待って」
みなみさんの鋭い声が、そいつの言葉を遮った。
「…お願い。それ以上言わないで。私だって悪かったんだし、怒ってるわけじゃないから…」
その時、体育館から及川を呼ぶ声が聞こえた。扉から岩泉が顔を出す。
「藤宮先生、及川のヤツ見ませんでした?」
「あ、いや…見てないな…」
「そーっすか…。ったく、あの野郎…どこ行きやがった…」
ぶつくさ言いながら岩泉はまた体育館にひっこんだ。
今しかない。
会話の途切れたタイミングを見計らって、俺はできるだけ自然を装って声をかける。
「…野村先生!」
「す、菅原君っ…!」
驚いた表情でみなみさんはこちらを振り返った。
「何やってんのさ、みんな待ってる」
「う、うんっ…」
俺は二人の間に割り込むようにして、自分の後ろにみなみさんを立たせた。そうして目の前のソイツ、藤宮を見上げる。スポーツでもやっていたんだろうか。がっしりしたその体格を、一瞬羨ましく思ってしまった自分が腹立たしかった。気持ちだけは負けないように、俺はまっすぐ藤宮を見て言った。
「今日はありがとうございました。これで失礼します」
「あ、あぁ…こちらこそ」
「じゃ、行くべ」
俺はみなみさんの手首を掴んで引っ張った。