第5章 練習試合と邂逅
去り際、藤宮は申し訳なさそうに笑って言った。
「引き止めてすまなかった。…またな、みなみ」
「う、うん…」
ソイツがそれ以上なにか言う前に、俺は強引にみなみさんを引っ張る。力の加減なんかしてる余裕なかった。
「孝支君っ、ちょっと、待って…!分かったから…!」
グラウンドの手前に来たところで、俺はようやく彼女の腕を離した。自分の中にぐるぐると渦巻いている感情を、今すぐ何かにぶつけたかった。
なにが「またな、みなみ」だ。さっきの会話を聞く限り、みなみさんとアイツがただの先輩と後輩の間柄なんかじゃないことは誰にだって分かる。でも、今は?しばらく会えない間に、何かあったんだろうか…。みなみさんは、未だにアイツのことを想ってるんじゃないのか?それに、最後にアイツが言いかけた“ユリ”って一体誰のことだろう…。
「…孝支君、ごめんね。もしかして皆を待たせたこと怒ってる…?」
立ち止まったまま何も言わない俺に、息を切らしながらおずおずと彼女は尋ねた。俺はグッと手のひらを握って、声を絞り出す。喉に何か詰まっているみたいに、掠れた声しか出なかった。
「…いや、違うんだ。ごめん、腕痛かったよな」
「…ううん大丈夫」
「…ごめんね、迷惑掛けて」そう言った声が少し震えていた。自分のためにみなみさんを怯えさせて、何やってんだよ。俺は静かに息を吐いて言った。
「…とにかく行こう、皆を待たせてるし」
「う、うん…」
俺はみなみさんに背中を向けたまま歩き、黙ってバスに乗り込んだ。