第5章 練習試合と邂逅
「…ガワラ、菅原っ」
名前を呼ばれて我に返る。振り向くと、清水が心配そうな顔で立っていた。
「大丈夫?もしかして気分悪い…?」
「あっ、ご、ごめん…!ちょっと考え事してただけ…!」
「そっか、ならいいけど…。日向のが伝染っちゃったのかと思った」
「だ、大丈夫。悪い…!」
(…何やってんだ、俺は。とにかく今は目の前の試合に集中しろ)
そう言い聞かせて、俺はぶんぶんと首を振り、コートを見つめた。
試合は序盤から烏野側が2〜3点リードした状態を保っている。守備に強い大地と縁下がよくカバーしてくれているし、田中のスパイクもいつもよりキレがある。日向の速攻が上手くハマって青城のペースを乱し、長身の月島と影山のブロックが相手の得点を防ぐ。流れは悪くない。大きく崩れなければ、このままなんとか逃げ切れる。
青城21-烏野24でこちらのマッチポイントになった時、アップを終えた及川が悠々と戻ってきた。
「あらら〜、ピンチじゃないですかぁ」
「…及川、アップはもういいのか」
「はい、バッチリです!」
「よし、ちょうどうちのサーブ権だ。ピンチサーバー入れ」
「はいはーい」
締りのない返事に、青城のエースーーー
岩泉がギロリと及川を睨む。
「おい、遅ェーんだよ。これで外したらただじゃおかねーからな」
「大丈夫だよ、岩ちゃん。向こうのチームは、攻撃が得意ってのは見てて分かったけど…。その“攻撃”まで繋げなきゃ意味がないってコト、教えてあげるからさ…!」
及川は不敵な笑みを浮かべて、月島と日向を交互に見た。
「メガネのキミとそこのチビちゃん、もしかしてレシーブ苦手かな?」
「……っ!」
「ち、チビちゃん…!?」
「次のサーブ、キミ狙いで行くから」
そう言って、及川は月島を指差した。鋭い眼光に思わず月島が身を固くする。ホイッスルが鳴り、及川がふわりとボールを上げた。
数歩駆けて踏み込み
背中をしならせて跳び
腕を鞭のように振り下ろす
及川の放ったサーブは、宣言通り少しのズレもなく月島の真正面めがけて切り込んできた。コンマ数秒遅れて月島が動く。