第5章 練習試合と邂逅
床スレスレで月島の腕に弾かれたボールは、バシンッ、と激しい音を立てて大きく後ろに逸れ、威力を保ったまま2階の観客席へ突き刺さる。ボールの行方を追って見上げたみなみさんが、身体をこわばらせて呟いた。
「す、すごいサーブ…」
及川は次のボールを受け取って、感触を確かめるように手の中で遊ぶ。そして、もう一度月島を指差した。
「さて、もう一本」
「チッ…」
同じ映像をリフレインして見ているみたいだった。及川のサーブは、威力もコントロールも乱さないまま、もう一度月島めがけて放たれた。ボールが月島の腕に弾かれて、今度は横に逸れる。
青城23-烏野24
「よ〜し、あと1点で追いつくね」
「クソッ…」
月島は悔しそうに顔を歪める。それを見ていた大地が、落ち着いた声で言った。
「…よし、全体的に後ろに下がれ。月島は少しサイドラインに寄れ」
「…はい」
「なるほど」と呟いた俺の方を向き、みなみさんが首を傾げる。
「どういうこと…?」
「うちは攻撃に比べてまだまだ守備が弱い。だから、レシーブが得意な大地がカバーに入りやすいように、守備範囲を広げたんだ」
「それで大丈夫かな…」
みなみさんが心配そうな視線を向ける。及川の三本目のサーブ。ボールは、まるで磁石でも付いているかのようにまたも月島の真正面をめがけて飛んでいく。山口が悲痛な叫び声を上げた。
「ヅッギイィィィ〜〜〜〜!!!!」
「でもコントロール重視の分、威力がさっきより弱い…!」
なんとか取ってくれ、と念じた。
激しい音を立てて、月島のレシーブでボールが高く上がる。大きな弧を描いて落ちる先は、青城のコート。及川の真上だ。
「上がった…!!ナイスツッキーー!!」
「でも相手のチャンスボールッ…!」
2、3歩後ろに下がって、及川はチームメイトに呼びかける。
「ホラ、おいしいおいしいチャンスボールだ。きっちり決めろよ、お前ら!」