第5章 練習試合と邂逅
「はぁ〜い」
及川は肩をすくめ、ひらひらと手を振りながらウォーミングアップをしに行った。その背中を見つめながら、入畑監督は頭を抱えた。
「全く…あいつのあの不真面目な態度はどうにかならんものか…」
…なんというか、おどけているように見せて油断できないヤツ、というのが及川の第一印象かもしれない。浮ついているようにも見えるけど、実力に裏打ちされた揺るぎない自信がその言動から伝わってくる。バスの中で影山が言っていた“気になる人”というのは、きっと及川のことだろう。
考えていると、さっきの教師に案内されてみなみさんがこちら側のベンチにやってくる。
「武田先生、遅くなって申し訳ありません」
「いえいえ、会議お疲れ様でした!」
「あと、こちらは青城バレー部の副顧問をされている藤宮先生です」
「どうも、今日はわざわざありがとうございました」
「こちらこそ、貴重な機会を作っていただきありがとうございます…!青城のチームはさすがの安定感ですね」
「いえ、まだまだです…。肝心のキャプテンがあんな感じですから」
そう言って、男性教師は向こうでウォーミングアップをしている及川を顎でしゃくった。及川は呑気に、2階の女子達に手を振っている。
『ピーーーーッ』
試合再開の合図が鳴る。
「おっと…じゃ、俺はあっちで見てるから」
「うん、分かった。ありがと」
「じゃあ、また後でな、みなみ」
小声で言ってみなみさんの肩に触れ、その先生は向こうのベンチに走っていった。やけに親しげな様子に、俺の心はざらりと逆なでされる。
「…今の人、知り合い?」
「あぁ…うん、大学の時の先輩なの」
「ふーん…」
それにしては仲が良さそうじゃないか、と反発しかけて、俺は口をつぐんだ。会わなかった5年間、彼女には彼女の生活があったんだ。恋人や好きな人がいたって、ちっともおかしくない。ここでヤキモチをぶつけるなんて、ただの子供じゃないか。
さり気なく肩なんか触りやがって、と人知れずそいつのことを睨みつける。青城の監督と打ち合わせしながら選手に目を配る様子は真剣そのもので、悔しいけど、きっと真面目なヤツなんだと思わせる。すっきりと通った鼻筋だとか、俺よりも高い背丈だとか、広い肩なんかを見ていると、勝手に自分が負けた気がして情けなくなった。