第5章 練習試合と邂逅
バスが発車すると、窓の外の景色がぐんぐんと後ろに流れていく。このままどこかに出かけてしまいたくなるほど、気持ちよく晴れた空だ。
バスに乗ってしばらくすれば、さすがの日向も落ち着くかなと思ったけど、そんなことはなかった。いつも元気すぎるくらいの日向が、今日はやけに静かなままだ。様子が気になって後ろを振り向くと、斜め後ろに座った影山の姿が目に入った。頬杖をついて、眉間にシワを寄せながら窓の外を睨んでいる。さすがの影山も強豪相手に緊張しているのか、人差し指で膝を小刻みに叩いていた。
「なんだよ、影山も緊張してんのか?」
声をかけると、影山は頬杖をやめてこちらを向いた。
「あ、いえ、緊張っつーか……」
「……?なんだよ?」
「ちょっと気になる人がいるんです、青城に」
「…そーいや、青城といえば北川第一中学のバレー部の大半が進む高校だろ?元チームメイトが多いと、その…やりにくくないのか?」
「いえ、そういうわけじゃ…。同じチームじゃないなら、ただ全力でやるだけです」
そう言い放った影山はまっすぐ前を見据えていた。てっきり中学の試合で孤立させられたことが気になってるのかと思っていたけど、そうじゃないみたいだ。
だけど、影山はふっと目を伏せる。
「ただ、あの人が…」
「あの人…?」
影山が口を開こうとしたその時、後ろの方から田中の声が上がった。その隣には日向が座っている。
…イヤな予感がした。
「ゲッ!日向お前なんだよ、その顔っ!?」
「あ、ちょっと…昨日、眠れ…なくって…」
「オイオイ、マジで大丈夫かよ…
お前、死にそーな顔してんぞ…」
「あ、ちょっ…ま、窓開けても…
うっ…ぅおえぇーーーーっぷ…!!」
「うああぁぁぁぁぁあああ!!
コイツ俺に吐きやがったぁあ…!!
バスッ、バス止めてえぇぇぇ!!!!」
田中の悲鳴が響き渡る。
「ちょっ…信じらんないんだけど…」
「オイ、月島逃げんなっ!!」
「ヒィィィィーーー!!」
「誰か、ティッシュと袋持ってこい…!」
「ティッシュじゃ間に合わねーだろ!
タオルだ、タオルっ…!」
「だっ、大丈夫ですかっ…!?」
「わあぁぁっ、先生は運転しててくださいっ!!」
田中に呼応するようにあちこちで叫び声が上がる。バスの中は、あっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図になった…。